2015年8月12日水曜日

Q:シャワーはいつできたの? シャワーの歴史

お風呂場を直している時に、壁付けの電動シャワーを外しました。下から出てきたのは、シャワーが取り付けられる前に張られていた壁紙達。この家にはいったいいつシャワーが取り付けられたのでしょう? 壁紙の歴史はまた別の機会に調べてみたいと思いますが、今回はシャワーについて調べてみたいと思います。


©モリスの城
                 

シャワーの歴史は意外に古い

 

シャワーの歴史はお風呂の歴史程は長くないですが、それでもかなり昔にさかのぼります。とはいっても、もともとは雨がそのままシャワーがわりだったのでしょうから、そう考えればもっと昔にさかのぼるのでしょうが。英語でにわか雨のことをシャワーといいますが、シャワーという言葉じたい、雨に由来しているのでしょうね。

 

紀元前3100年から紀元前332年まで栄えた古代エジプトの裕福な家には、主寝室のとなりにバスルームがあり、小さなバスタブの中に主人が入ると、奴隷が上から水をかける、という今でいうシャワーの様な形で体を洗っていました。

 

古代ギリシアでは水が引かれ、少なくとも紀元前約480年には私達のようにシャワーをあびていたことが壷絵に残されています。

 

Greek_open-air_shower_baths_for_men._Gouache_painting._Wellcome Collection (creative commons)



イギリスで考案されたシャワー

 

シャワーが英国史に登場するのは18世紀です。1767年にWilliam Feethamによってシャワーが考案されます。この移動型シャワーは上部にお湯を貯められる様になっており、チェーンを引くとその水がザバッと落ちるようになっています。そして下にたまったお湯を今度は下についているポンプで上に送り、またチェーンを引いてお湯をあびる、という構造になっています。お湯がどんどん汚くなり、冷たくなるのが弱点でした。1822年には前述のWilliam Feethamが落ちる水の勢いを調節できるシャワーを発明し、特許をとります。

 

滑るシャワー

 

ケンブリッジからほど近いところにあるWimpole Hallにはこの頃に作られたシャワーがあります。このシャワーは3m以上あり、金属でできた支柱は竹に見える様にペイントされています。また、シャワーカーテンをつけることもできます。このタイプのシャワーは「イングリッシュリージェンシーシャワー(English Regency Shower)と呼ばれます。

 

©anonymous6

この様な移動可能なシャワーだと、水の使用量もお風呂に比べて少ないですし、お湯を運ぶ手間がかなり省けたと思います。ただ、キャスターがついているので、シャワーをかかっているうちに、廊下をすべっていってしまう危険性がありました。

 

ちなみに、髪の毛を濡らさないために、シャワーキャップのかわりに油布でできた円錐形の帽子をかぶりました。


水療法

 

1829年に、ドイツで水療法が開発されました。それはイギリスにも紹介され、治療として注水が行われました。

 

マルバーンにあった療養所の注水機(douche)では、6メートルの高さから、すごい勢いで水を流したそうで、かなり痛かったそうです。ある女性が、水の落下距離を縮めて痛さを和らげるために、医者に内緒で木の椅子の上に立ち、水を浴びたら、木の椅子が壊れたという話もあります。

 

A man taking a shower as part of a hydrotherapeutic cure. Wood engraving by O.T., 1860 (public domain)
 

悪魔のようなシャワー

 

19世紀後半になると、水道が配管され、中流家庭でもバスルームができてきます。また、様々なお風呂と一緒になったシャワーが、カタログに現れる様になります。

 

この頃は、シャワーはまだ体を洗うものというよりも、療養の為のものだと考えられていました。

 

この時期を代表する小説家チャールズディケンズは、冷水で刺さるような自分のシャワーを、「悪魔(The Demon)」と名付けました。



針のようなシャワー

 

ニードルシャワー(needle shower)と呼ばれるものは、細い針が背骨やお腹のあたりをねらって刺す様に水が出てくるものでした。このシャワーの形が胸郭に似ているため、「the ribcage(胸郭)」とも呼ばれます。これはかなり高価で、主にジェントルマン用のジムや、一部の富裕層の家にとりつけられました。

 

Rib_shower by Doug Coldwell (creative commons)

 

公共衛生に使われたシャワー

 

レイン風呂(rain bath)は真下を向いた円盤形のシャワーで、公衆浴場や病院に多くとりつけられました。

 

スプレー風呂(spray bath)は、1890415日付けの『The Sanitary Record』によると、公衆衛生のため、救貧院、寄宿学校、カレッジなどに置かれ、貧しい子どもたちを清潔に保つのに役立っていたそうです。

©モリスの城

シャワー風呂

 

天蓋風呂(canopy bath)はお風呂の一部がシャワーになったもので、シャワーの部分は囲いがあり、上等なものになるとニードルシャワーの様に腎臓、背骨、ビデ、シャンプースプレー等、部分的に集中して水が出る機能もついていました。食器で知られるロイヤルドルトンが作った陶器のものもあります。

 

©anonymous6

 

シャワーを浴びるのに医者の許可が必要?

 

1920年以降に建てられた家は上下水道が整備されていましたが、それでもシャワーがある家は限られていました。シャワーがある家でも、これは主に男性が使用していました。というのは、19世紀から20世紀初頭には女性はか弱いものだと思われていたからです。「シャワーはショックが強いので、妊婦があびたら流産しかねない」とも言われ、女性は医者の許可を得ないとシャワーをあびてはいけないといわれていました。

 

浴槽の蛇口がシャワーに!

 

1988年に私が初めてイギリスに来た時にステイした家では、浴槽のお湯と水の蛇口それぞれにY字型のホースの別れている方をつけ、その先がシャワーになっているというものでシャワーをあびました。ですからお風呂の時ははずし、シャワーを浴びたい時にはそれをつけました。日本で普通にシャワーをあびていた私にとっては衝撃でした。

 

1990年代初頭でも、借りていたアパートでもそうでした。しかも家の中に水のタンクがあり、それが温まらないとお湯が使えないようになっていました。ですから、シャワーをかかっている途中に、お湯がなくなって冷たい水になり、ヒィっとあわてて浴槽から飛び出すということもよくありました。

 

 

お風呂より人気になったシャワー

 

2015年現在、イギリスの家庭の86%はシャワーがあるそうです。21世紀に入ってからは特に、お風呂よりもシャワーの方が人気です。一軒の家の中でも主バスルームの他に、寝室付きのバスルームがある場合、そこには浴槽はなくシャワーのみが一般的です。また小さいフラット(アパートメント)の場合シャワーしかない場合もあります。

 

それから想像して、この家に、というかこの壁にシャワーが取り付けられたのは1980年代初頭ではないかと思われます。

 

 

*2022年5月更新

 

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<参考文献>

 

 

Jenner, Greg, 2015, A Million Years in a Day: A Curious History of Everyday Life (Orion)

Laws, Bill, 2010, Home Truths: An Alternative History of Every House (The History Press)

Worsley, Lucy, 2011, If Walls Could Talk: An Intimate History of the Home (Faber)

Wright, Lawrence, 1963, Clean and Decent: The History of the Bathroom and the W.C. (Routledge & Kegan Paul)

 

Dietetic and Hygienic Gazette Vol.9, 1893 (Gazette Publishing Company)

The London Journal of Arts and Science Vol.5, 1823

The Sanitary Record Vol.12, 1891 (Sanitary Publishing Company)

 

Ama Research, Shower Market Report – UK2011-2015 Analysis