2016年9月11日日曜日

Q:子供が煙突掃除していたって本当? 暖炉の歴史

 

この家には2カ所に煙突があるのですが、紹介された煙突掃除屋さんが忙しくてなかなか時間がとれなかったこともあり、やっと先日、3年程前に引越して来てから初めて掃除をしてもらいました。

 

一つの煙突の上にはコクマルガラスが巣をつくってしまい、小枝がポロポロと落ちて来ていたのは知っていましたが、掃除してみるとでてくる、でてくる。なんと60L用のゴミ袋5袋分の小枝がでてきました。

 

私達の前に住んでいた人を含め、少なくとも5年は掃除していないので、その分の鳥の苦労の作を壊してしまうのもかわいそうな気がしましたが。でも煙突掃除屋さんによると、このくらいの巣は56日でつくってしまうそう。彼の経験上一番大変だったのは、この5倍程の量で、掃除するのに5時間かかったそうです。


©モリスの城

登る少年


実はディズニー映画「メアリー・ポピンズ」でも有名なこの仕事、イギリスでは一時期は子供達がやっていたのです。

 

工業化に伴い、18世紀の後半から、平均年齢10歳の児童労働者が工場や炭坑、また、煙突掃除屋として働いていました。彼らは孤児や貧しい家の子供達で、雇用者に弟子入りさせられ、仕事の報酬として衣食住の面倒をみてもらっていました。

 

体の小さい子供は煙突の中に入れるので、狭い煙突の中を掃除するのに最適だと思われていました。「climbing boys(登る少年)」と呼ばれるこの子達は煙突の中を登り、中をブラシできれいにし、木材を燃やす事ででるタールを削り取る仕事をしました。

 

 

危険な仕事


 ディズニーの描写とは裏腹に、煙突掃除の仕事は過酷なものでした。埃やすすの吸引による窒息ややけど、また煙突の中につっかかり動けなくなる等して多くの子供達が亡くなりました。

 

さらに、1775年には外科医のPercivall Pottが、毎日その仕事を行う事による毒素吸引と陰嚢癌の関連について発表しています。子供の頃からclimbing boysとして煙突掃除に携わっていた人の癌の発病率が顕著に高かったそうです。

 

A seven-flue stack, showing how it would be cleaned by Climbing boys, or with little modification by a human cleaning machine (a brush). Joseph Glass, 1834, Mechanics' Magazine (public domain)
 

半数が児童労働者


1821年には全労働者のほぼ半数、49%が20歳未満の子供でした。児童労働者の様子はチャールズディケンズ、チャールズ・キングスレーを始めとするヴィクトリア時代の小説からも読み取る事ができます。

 

 1760年代には裕福な商人で慈善家であるJonas Hanwayが煙突掃除屋の児童労働者の労働環境改善の為に運動を起こし、1788年にはChimney Sweeps Act(煙突掃除法)で弟子の最低年齢は7歳だと決められました。とはいえ、法的効力はあまりありませんでした。

 

 

子供の方が機器より効果的


1819年の下院議会で、煙突掃除の親方達は、お客さんは子供達の方が煙突掃除用機器よりも効率的に掃除すると思っているので、機器を使って掃除をしたら、お客さんがいなくなってしまう、と証言しています。



The Little Chimney Sweep by unknown engraver 1828 (public domain)

 

10歳以下は禁止…のはず


1830年代になると、イギリス議会は児童労働者の搾取問題により積極的に取り組む様になり、1834年の煙突掃除法では10歳未満の弟子をとることを禁止し、実際に煙突掃除に携われるのは14歳以上と定められました。

 

1840年には弟子の最低年齢は16歳に引き上げられましたが、まだ10歳以下の子供達が煙突の中を登らされているのが実状でした。

 

1875年になってやっと、煙突掃除は免許制になり、弟子の年齢制限を取り締まるのは警察の仕事であると定められました。

 

 

義務教育の導入


1878年にはすべての仕事で10歳未満の児童労働が禁止になり、児童労働廃止に向けて、1880年には10歳まで義務教育になりました。義務教育の年齢は1893年には11歳に、1899年には12歳になりました。

 

しかし、1901年時点で、まだ30万人の子供達が学校の時間外に働いていました。仕事の為に学校をさぼることも大きな問題の一つでした。親としては、子供が稼いできた収入が減ると家計に響くので、学校に行かせるよりも仕事に行かせたいという人もいたからです。


Child welfare; Ragged School, Whitechapel, 19thC Wellcome Collection (public domain)

小さい大人から子供へ


とはいえ、1889年には全英児童虐待防止協会(NSPCC: National Society for the Prevention of Cruelty to Children)も設立され、19世紀末から20世紀初頭には、子供達は仕事に行く代わりに学校に行く様になり、「小さい大人」から子供でいられるように変わってきたのです。

 

 

お風呂の効用


さて、18世紀に煙突掃除と癌の関連が浮上した時に、医者は患者に何とアドバイスしたでしょう。実は「毎日お風呂に入る事」だったのです。以前にも述べましたが、当時普通の人達は定期的にはお風呂に入りませんでした。でも、実際にそのアドバイスにしたがっただけで、癌の発病率がガタンと下がりました。

 





3 件のコメント:

  1. 毎回、楽しみにしております。 60Lが5袋ですか?! すごい量ですね。。やはり煙突掃除というのは危険な仕事だったのですね。メアリーポピンズはもっと違った読み方ができるということですね。そういえば、住み込み家庭教師についても「必要とされなかった娘たち」みたいな研究があります。ディズニー映画も裏からみると、興味深いです。

    返信削除
  2. Shimonan様、ありがとうございます。メアリーポピンズではもちろん階級社会も浮き彫りにされており、中流階層の奥様達が女性解放運動に奔走している間、下級階層の女性達はその家の子守り&家庭教師として働かざるをえなかったのですよね。もちろん家庭教師になれるのはまだ幸運な女性達。社会的背景がわかるといろいろと見えてくるものがありますよね。

    返信削除
  3. ディズニーとは違いますが、ロミオの青い空という日曜名作劇場で、彼らが主役のアニメがあります。
    主人公の友人が結核で亡くなり、この過酷な事実を知りました。しかし、昔は貧しい人が当たり前のように搾取されて弱者の子供が犠牲にになっていて
    それは今でも途上国、いや日本でもあるそうです。
    この現実を心に留め、決して見逃さない人間になっていきたいです

    返信削除