うちの隣は今近代的なビルになってしまっていますが、その昔には多分うちと同じような建物が続いて建っていました。
息ができない外壁
その隣とくっついていたであろう外壁は、今はコンクリートで塗られています。コンクリートは息ができないため、家の中の壁に影響が出てきており、そのため建築保護を専門にしている建築家を通して、その壁を息のできる石灰のモルタルに塗り替えるという話が出ました。
結局コストや大規模な工事になることから、その話は流れたのですが、その時に建築家から出た提案の中に、「石灰のモルタルの上にmathematical tilesを貼る」というのがありました。mathematical tilesって数学的タイル。これって何?そこで調べてみました。
レンガのようなタイル
数学的タイルというのは、外壁用のタイルで、パッと目にはレンガのように見えます。この名前がどこから来たのかは不明なのですが、一説によると、これがよく使われるようになった18世紀には科学が大変進化した時代であり、トレンディであったことから、それにちなんだ名前ということで「数学的」となったともいいます。
これらのタイルは壁に直接貼られるわけではなく、オーク材の木片の上に、杭を使って、下のタイルが上のタイルに重なるようにして固定されています。
安価になったタイル
外壁用のタイルの歴史は意外に古く、アングロサクソン時代に既に使われていたという説もあります。しかし、私たちが現在見ることができるようなイギリスの家に使われるようになるのはタイルがもっと一般的になり、安価になった17世紀後半になってからです。
木骨造の家では、木枠の間に編み枝細工に粘土や泥を塗った荒うち漆喰が壁として使われていました。築何年かすると、木枠や壁が乾き、ヒビが入り、そこに雨水が入ると木枠が腐りやすくなります。それを防ぐ為に外壁にタイルを使ったのです。
木造の家禁止令
1666年にロンドン大火が起こります。パン屋のかまどから燃え広がった火は、所狭しと並んだ木造の家にどんどん燃え移り、1万3200万戸が消失しました。その為建築法規が厳しくなり、全ての家はレンガか石造りであることが義務付けされます。
レンガにも税金が!
1784年になると、アメリカ独立戦争(1775−1783)の支出を補う為、ジョージ3世により、レンガ税が課されます。以前に窓税について書きましたが、いかに建築物から税金をひねりだせるかがこのころのテーマのようです。
レンガやレンガ税についてはまた別で詳しく述べたいと思いますが、レンガに税金がかかったことで、数学的タイルの需要が増えたという説が強力でした。
モダンな家にしたい!
しかし、実は数学的タイルにも同じ税金がかかったので、それが事実かどうかは疑わしいという説もあります。それよりも、レンガ造りの家がトレンディになったので、木造の家の人たちが、その家を壊してレンガで作り直すのはお金がかかるから、レンガに見えるタイルで家を覆ってしまえ、ということで数学的タイルの人気が出たという話もあります。
Display of mathematical tiles at Bourne Hall Museum, Ewell by Lord Belbury (creative commons) |
イングランド南西部で人気
この数学的タイルは主にサセックス州とケント州で使われています。サセックス州のブライトンやルイス(Lewes)では主に白っぽい、黄色っぽい色のタイルが使われておりますが、ブライトンにあるロイヤルクレッセントでは塩焼きレンガ(salt-glazed bricks)に似せた黒い釉のかかったものが見られます。このように全国的ではなく、イングランド南西部に集中して使われていることを見ると、やはりレンガ税とは関係なかったのかなと思われます。
Royal Crescent, Brighton by Stuart Walsh (creative commons) |
さて、家の外壁ですが、私たちは数学的タイルに大賛成だったものの、保存担当員に「数学的タイルはこの地域では使われていなかった」と却下されてしまいました。
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