2022年11月6日日曜日

Q:猫は魔除けだったの? 魔除けの歴史

先日ハロウィーンのイベントで、ガイドさんについて街を歩き、街にまつわる幽霊話を聞くツアーに行ってきました。それ自体面白かったのですが、何より私が惹かれたのは、ガイドさん自身の話です。魔女のような風貌の彼女は、15世紀ごろに建てられた家に住んでいるのですが、その煙突の中にミイラ化した猫がいたそうなのです。家を買った時に「猫のミイラ着きだよ」と不動産屋さんに言われたそうです。どうも魔除けだったらしいのですが……。

 

15世紀のイギリスの家
15世紀の家 イメージ

でも、猫は魔女の使い魔ではないのでしょうか?『魔女の宅急便』のキキは黒猫のジジを従えていますし、ハリー・ポッターのハーマイオニーにはクルックシャンクスがいます。そうだとしたら、猫は悪魔の味方なのではないでしょうか?それが魔除けに使われるとはどういうことでしょう?ということで調べてみました。

 

 

ミイラ化した猫は意外に多い

 

実は、ミイラ化した猫は、イギリス中(スコットランドではあまりないようです)で見つかっているようです。煙突の中だけでなく、壁の間、床下、屋根裏など、どう考えても猫が自分の意思で行って死んだとは思えない場所に、多くの場合、家の改装や取り壊しの時に見つかっているらしいのです。中には、生きたまま埋められたと考えられるものも。有名なところでは、ウェストミンスター寺院の壁の中からも見つかっています。

 

猫のミイラ
17世紀のミイラ化した猫 Moyse's Hall Museum

頻繁に見つかるところは、ドアや窓の近く、そして煙突の近くのようです。多くは1518世紀、魔女狩りの時代のものだそうです。1597年にジェームズ一世によって書かれた『デモノロジー(悪魔学)』には、悪霊は窓、ドア、または空気が入るところならどこからでも家に入り込むと書いてあります。電気のなかった当時、夜は真っ暗で、そこに何が潜んでいるかもしれない。病気や不幸があれば、やはり悪霊のせいにしたくなるのはわかります。そして、その闇に続くドアや窓、そして煙突といった開口部は、守るべきところだったのでしょう。

 

ねこのミイラ
ある猫が見つかったところ Moyse's Hall Museum展示パネル
 

猫は魔女の使い魔?

 

でもどうして猫だったのでしょう?猫は魔女の使い魔ではないのでしょうか?

 

実際、1556年のイギリス南東部、チェルムズフォードの魔女裁判の記録には、「Sathan(サタン)」という白ぶちの猫が魔女のかわりに仕事をし、その見返りに血を求めていたことが書いてあります。

 

ところが、イギリスで猫が主要な魔女の使い魔として扱われるようになったのは、19世紀後半になってのことのようです。それまではもっと小さな動物(おそらくヒキガエルなど)が好まれていたそうです。

 

 

黒猫は幸運の印

 

事実、黒猫は幸運の印でした。南イングランドでは、黒猫を飼うと娘が嫁にいけると言われていましたし、ミッドランドでは、幸運を呼ぶ結婚祝いとして黒猫が渡されていました。ただし、未婚の女性が猫の尻尾を踏んでしまったら、その先一年は結婚できないと言われていました。

 

スカーバラでは、船乗りの妻が黒猫を飼っていると、夫が無事に戻って来ると信じられていましたが、もしその船乗りの乗った船に2匹の黒猫が乗船していたら、それは縁起が悪いと考えられていました。

 

 

悪霊を捕まえる?

 

ペットとして猫を飼っているとつい忘れがちですが、猫はずっとねずみ捕りとしての役割を果たしてきました。愛犬家の友人が16世紀に建てられた素敵なファームハウスに住んでいるのですが、ご主人にねずみ捕りとして猫を飼うべきだと言われて、今は3匹の犬と2匹の猫と一緒に住んでいます。

 

夜行性ですばしこく獲物を捕まえる猫は、闇の世界の悪霊も同様に捕まえると信じられていたのでしょう。

 

 

魔女は猫に変身する?

 

おもしろいことに、スコットランドのハイランドには、エルフィンキャットもしくはキャットシー(Cat sith)と呼ばれる猫の言い伝えがあります。それは大型犬の大きさで、黒く、胸に白い斑があり、背中が丸まって毛が逆立っているそうです。人々は、それが魔女が変身したものと信じ、恐れていました。ちなみに、ハリー・ポッターのマクゴナガル先生は猫に変身しますが、彼女はスコットランド人なので、エルフィンキャットの伝説がモデルになっているのでしょう。スコットランドに猫の魔除けが少ないのは、スコットランドでは猫は悪魔の側にいると考えられていたからかもしれません。

 

エルフィンキャット
エルフィンキャット想像画

 

魔除けの効果は?

 

ところで、魔除けは本当に効果があるのでしょうか。実は結構今でも効力があると思っている人が多いようです。というよりも、その魔除けを取り除いたら悪い事が起こったので、魔力があるのだと信じたという人が。

 

Brian Hoggardは、魔除けに関する会議Hidden Charms Conferenceの会報の中で、ウスタシャーにある、16世紀に建てられたナショナルトラストの建物の例を出しています。そこの厩の上階は召使が使っていたようなのですが、そこを新しくアパートメントに改装していた時、大工たちが壁の間、梁の上に座ったままミイラ化した猫を見つけたそうです。それを捨てろと言われて仕方なく廃棄物入れに捨てに行った人は、戻ったら、新しくはめた漆喰パネルが頭のうえに落ちてきて、頭を切る怪我をしたそうです。その人は猫の呪いだと信じているとのこと。

 

最初にお話ししたガイドさんも、「邪気は感じないのよ」と言いながらも、今も大事に箱にいれて屋根裏部屋に大切にしまっているそうです。

 

次回は、同じく隠された靴について書いてみたいと思います。

 

 

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<参考文献>

 

Dunwich, Gerina, 2018, Your Magickal Cat: Feline Magick, Lore, and Worship (Citadel Press)

Guiley, Rosemary, 2010, Encyclopedia of Witches, Witchcraft and Wicca (Facts On File, Incorporated)

Hoggard, Brian, ‘Evidence of Unseen Forces: Apotropaic Objects on the Threshold of Materiality’, in Hidden Charms: A conference held at Norwich Castle April 2nd, 2016 (Billingsley, John, Harte, Jeremy, and Hoggard, Brian (eds.), 2016, Northern Earth)

Howey, M. Oldfield, 2003, The Cat in Magic and Myth (Dover Publication)

King James I, 1597, Daemonologie: In Forme of a Dialogie Diuided into three Bookes (Robert Walde-graue, printer to the Kings Majestie)

Roud, Steve, 2006, The Penguin Guide to the Superstitions of Britain and Ireland (Penguin Books Limited)