2018年1月28日日曜日

Q:イギリスの食事の習慣は? 食事の歴史

 

今日イギリス人の同僚とおしゃべりをしていた時に、高校時代の早弁の話から食事の呼び方の話になりました。同僚二人はケンブリッジ育ち、一人はマンチェスター育ち。お昼ご飯の事をケンブリッジ育ちは「ランチ」といいますが、マンチェスター育ちは「ディナー」と言いはります。「だって学校の給食は『スクールディナー(school dinner)』で給食のおばさんの事は『ディナーレディ(dinner lady)』と呼ぶじゃない」。

ちなみにお弁当は「packed lunch」です。イギリスではイングランド 南北の文化が、関東と関西のように違うのですが、その違いを垣間見た気がして面白かったです。

食事の呼び方についてみんなで数えてみました。Breakfast, elevenses, lunch, afternoon tea, tea, high tea, dinner, supper。「昔はちょこちょこ何度も食べたのよ」。本当でしょうか。

 

ということで、キッチンの歴史を探るにしてもやはり食の習慣を知っていないと、と気がつき、ここに整理をしてみることにしました。



古代ローマ時代の食事

 

古代ローマ時代には基本的に一日3回食事をしていました。朝ごはん(ientaculum)は起きてすぐにパンとチーズ、ドライフルーツと卵を食べました。お昼(cena)は正午近くに取り、これが一日のメインの食事でした。そして夜(vesperna)は軽食を取りました。

 

しかし、昼間は暑くて食欲が起きないこと、そしてローマ帝国の勢力拡大と共に他の食文化が入ってきて豪華になったこともあり、徐々にメインの食事であるcenaの時間は遅くなっていきました。 

 

Cenaが夕食を意味するようになると、「2度目の朝食」を意味するprandiumが昼食を意味する言葉として使われるようになりました。ローマ帝国下の支配にあったイギリスでも似たような食事のパターンだったと思われます。



中世には朝は何も食べなかった?

 

Heather Amdt Andersonは『Breakfast: A History』の中で、中世には朝食を食べなかったと書いています。この頃にはお昼前と夜、 一日2食しか食べなかったのです。食物史家のIvan Dayは、朝のミサの前には食べることは許されなかったと書いています。

 

イタリアの神学者であり哲学者であるトマス・アクィナス(1225 1274)は食事を朝早くに取りすぎるのはキリスト教の七つの大罪の一つ「暴食」に当たるとしているそうです。ただ、子供、老人、病人、および労働者は免除されました。

 

とても混乱することに、一日のメインの食事のことをdinnerと呼ぶのですが、ほとんどの人にとってそれがお昼ぐらいで一日最初の食事だったので、16世紀ぐらいまでは、朝食はとらず、お昼にdinnerを食べていたと考えるべきです。 

 
 

breakfastdinnerは同じ意味だった!

 
 

breakfastという言葉は中世の頃に「夜の間の断食(fast)を破る(break)」という意味から使われるようになりました。ちなみに、breakfastの語源はラテン語のjisjejunare(断食破り)で、dinnerの語源は古フランス語のdisner、そしてその語源を遡るとjisjejunareになるので、朝ごはんと一日の主要な食事とは同じ意味だったのです。



夜は暗すぎる

 
何故夜でなくお昼にメインの食事を取るかというと、電気がなかった時代では暗闇の中で料理をするのが難しかったからです。日の出と共に起き、お昼に料理をして、夜はパンやチーズ、ハムなど簡単なものを食べて日没と共に寝る、というのが理にかなっていたのですね。
   
 

イングリッシュ・ブレックファースト


さて、イギリスというとイングリッシュブレックファーストが有名です。卵、ベーコン、ソーセージ、トマト、マッシュルーム、ベイクトビーンズ、ブラックプディング(豚の血の腸詰め)に、フライパンのその油で両面を焼いたパンとトーストしたパン。
 
Full English breakfast at the Chalet Cafe, Cowfold, West Sussex, England by Acabashi (creative commons)
 

それの愛好者達が作っているThe English Breakfast Societyというグループがあるのですが、そのサイトによると、イングリッシュブレックファーストの起源はアングロサクソン時代にあるとしています。

 

最初の食事が一日のメインであった為、14世紀前半から紳士階級はゲストや親族、近所の人を招いては、地元で採れた素材をアングロサクソンの伝統的な調理法で調理した豪華な食事を振舞いました。紳士階級はほとんど地方の豪邸に住んでいましたから、イギリスの田舎のライフスタイルを保つことが彼らの務めだと考えていたのです。そして自分の所有地がどれだけ裕福かを見せびらかすという意図もありました。

 

一般人のdinnerはそんなに豪華ではなく、パン、スープ、パイ、そして肉か魚という感じでした。



最後の晩餐

 

ところで、夕食の事をsupperといいますが、これは古フランス語のsoperから来ており、「一日最後の食事」という意味です。ちなみにキリストの「最後の晩餐」の事を英語で「the Last Supper」と言います。私は何故「the Last Dinner」でないのだろうと不思議に思っていましたが、supper自体に「最後の食事」という意味あいがあるのであれば納得できます。supperという言葉が英語に入ってきたのは13世紀頃です。



The Last Supper by Leonard Da Vinch & associates, Santa Maria delle Grazie, Milan (public domain)

思っていたよりも複雑な食事時間の歴史。でも日曜日に食べるサンデーディナーやクリスマスディナーがお昼なのにディナーというのは、朝教会に行って帰ってからしっかり食べる、という中世から続くキリスト教の習慣から来ているのでしょうね。さて、この続きはまた次の機会にお話しします。


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注:ローマ時代の食事について、このブログを参考にさせていただきました。

<参考文献>

Anderson, Heather Amdt, 2013, Breakfast: A History: AltaMira Press

Allen, Robert W. and Albala Ken, 2003, Food in Early Modern Europe (Food Through History): Greenwood
Christ, Karl, 1984, The Romans: An Introduction to Their History and Civilisation: University of California Press




2018年1月15日月曜日

Q: このキッチンはいつのもの? キッチンの歴史


この家を始めて見た時に、キッチンの壁紙を見て、引っ越したら一番最初にこの壁紙を引っ剥がしてやる、と思いました。個人的にビニールクロス自体が好きではないのですが、その模様がダメでした。このタイルにこの壁紙?模様もチグハグの気がしました。
 
 

ぼろぼろのキッチン


そのキッチンときたら、前の住人はDIYで改装をし始めたものの途中で諦めたようで、壁紙は剥がれかけ、タイルは一部すでに剥がされ、システムキッチンの収納棚は朽ちかけており、しかもオーブン付きのレンジが入れられる所は冷蔵庫の奥で暗い。

 

でもこの家は古いので、壁紙を適当に剥がすと壁の漆喰まで剥がれてくるかもしれないから、プロに任せた方がいいと忠告されて渋々そのキッチンで3年過ごしました。


©モリスの城

壁紙にさよなら


ついにキッチンの改装をすることになりました。やっと壁紙とさよならすることになり、私は嬉しくて仕方がありません。
 
タイルに関しては、周りのイギリス人は口を揃えて「親のキッチンを思い出すよ。ヤダヤダ、ゴミ箱行きだね!」と言いましたが、私は実は気に入っており、このキッチンの歴史を次世代に伝える為にも新しいキッチンにリサイクルしようと決めていました。
 
そのためレンジの奥の壁に貼るのに充分な数のタイルを壊れないように一つ一つ丁寧に剥がし、洗って干して、とっておきました。

©モリスの城
 

35年前のタイル


改装は地元の改装業者に頼むことにしたのですが、打ち合わせでお店に行った時にそのタイルを持っていくと、その改装業者の社長さんが一目見て言いました。「これは僕が35年前にこの店を開いた時に扱っていたタイルだ!」

 

同じ通りにあるこの業者。彼がそのお店を開いたのは1981年です。きっと前の住民もここを利用したのでしょう。期せずして前のキッチンの年代が判明しました。1980年代初頭。


トレンディなアボガドグリーン

 

収納棚のドアの色はアボガドグリーン。アメリカの水廻り総合メーカーであるコーラーのサイトによるとアボガドグリーンが使われていたのは1967年から1979年。イギリスのドアメーカーOriginのサイトによると1970年代のキッチンカラーはアボガドグリーン、オレンジ、茶色、ゴールド、黄色となっています。

 

私たちの前の住人がキッチンの改装をしたのが1980年代初頭だとしても、一般家庭にトレンドが浸透するのは時間がかかりますから、70年代に人気だったアボガドグリーンを選ぶのもおかしくありません。

 

また、最近イギリスでは取っ手なしの収納棚が流行っていますが、実は196070年代のキッチンもスムーズで取っ手がないのが流行りでした。



時代を感じる床材

 

ビニル材の床は1920年代に開発されました。戦後素材不足ということもあり、コンクリートの床にビニル材の床シートを貼るのが一般的になりました。このキッチンも、覆われていたカーペットを剥がすと、コンクリートの上に70年代のものだと思われる茶色のビニル材が貼られていました。


©モリスの城
この壁紙にこのタイルにこのフロアの模様。今の目から見ると模様だらけでうるさく見えますが、当時としてはとてもトレンディなキッチンだったのでしょう。


適材適所

 
さて、タイルの話ですが、キッチンの取り付けをしてくれたマークは、私が子供のように大事に渡したタイルの箱を見て「これどこに行くべきか知ってる?ゴミ捨て場だよ!」と言っていたにもかかわらず、貼って全体を見ているうちに「認めたくないけどさ、悪くないね。好きになってきたよ」と気持ちが変わったのでした。

©モリスの城