前回クリスマスディナー、特に豚の頭についてお話しましたが、今回はその続きについて書いてみたいと思います。今回は鳥についてです。鳥は食べ物の中でも最も高貴だと考えられていました。これは鳥が天国に一番近いところにいるからです。
フランスからもたらされた白鳥
16世紀から19世紀にかけて、富裕層のクリスマスディナーには白鳥が出されました。白鳥はリチャード一世(1157−1199)によってフランスからイギリスにもたらされたと言われています。もちろん、野生の白鳥は以前からいたでしょうが、羽根の一部を切り、遠くに飛べなくして、「飼う」ようになったのはそれからです。
白鳥は王家の鳥
1482年から白鳥は「王家の鳥」として、飼うには許可が必要になりました。そしてある程度の地位がないとそれは許されませんでした。許可を受けた人は自分の白鳥のくちばしにマークを付けました。誰の白鳥だかすぐにわかる様、それは記録され、16世紀までには900以上のマークが登録されました。ちなみにマークのない白鳥は王室のものだとされました。
成鳥はパサパサ
中世には白鳥の成鳥が食べられていたようですが、成鳥の肉はとても固くてパサパサしている為、幼鳥が食べられるようになりました。雛の時に親から離されて別の池に連れて行かれ、そこで穀物を与えられ、太らされます。ちょうど大人の羽毛が出てくる時が食べどきです。それがちょうどクリスマス直前です。ですから白鳥が王侯貴族のクリスマスディナーになったのです。
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Lord Ilchester's Swannery, Abbotsbury, Dorset illustration from The Graphic (1883) |
ありとあらゆる鳥
もちろん白鳥だけではありません。1685年の前菜20種、メイン20種というクリスマスディナーのメニューには、白鳥のローストとパイの他に、鳥類だけでも、ヤマウズラ、鶏、食用オンドリ、ガチョウ、鴨、キジ、チドリ、ヤマシギ、ヒバリ、七面鳥の料理が並んでいます。また、ここには載っていませんが、孔雀も白鳥と並んで富裕層には人気でした。
七面鳥はアメリカから?トルコから?
現在クリスマスによく食べられる七面鳥は16世紀にイギリスに入ってきました。もともとは中央アメリカに生息していた鳥です。イギリスへはアメリカから直接きたという説と、トルコ経由できたという説があります。七面鳥は英語でturkeyといいますが、それはトルコ(Turkey)からきたからだと。
どちらにしても1530年代には家畜化され、1540年代からマーケットで売られるようになり、エリザベス一世の時代にクリスマス料理として人気になりました。
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"Wild Turkey" Plate 1 of Birds of America by John James Audubon date between 1827 an 1838, source: University of Pittsburgh |
靴をはく七面鳥
18世紀には、イングランド東部ノーフォークの農夫が、クリスマス前になると、七面鳥の群れを連れてロンドンのマーケットまで、約160kmの道のりを歩いていたという記録があります。鳥たちは長い道のりに耐えられるように、タールを蒸留した後に残るピッチに足をつけられたり、「靴」を履かされたりしたそうです。
詰め物は?
ところで、鳥の詰め物は伝統的に玉ねぎ、セージ、マジョラムとタイムが使われました。というのも、鳥は味をよくするためにしばらく吊るされましたが、冷蔵庫のない時代、食中毒も稀ではありませんでした。玉ねぎは解毒作用があるだけでなく、血圧やコレステロールの低下効果もあり、暴食暴飲の後の体を助けてくれます。セージ、マジョラム、タイムも解毒作用があり、また、セージは腸内のガスを出す助けになります。
七面鳥の詰め物
七面鳥の詰め物として最初に記録に残っているのは豚肉、カラント、卵とハーブで出来た詰め物で、1538年に使われました。
1774年のHannah Glasseのレシピでは七面鳥のローストの作り方として、「胸の部分の皮を持ち上げ、そこに詰め物を詰める」とあり、詰め物は牛脂、パン粉、レモンピール、アンチョビ、ナツメグ、胡椒、パセリ、タイムと卵の黄身で作ると書いてあります。
栗の詰め物は、1834年に出版されたEsther Copleyのレシピ本に、4種類の七面鳥の詰め物の一つとして出てきます。
クリスマス=七面鳥
一般的にクリスマスに七面鳥を食べるようになったのは19世紀に入ってからです。理由は手ごろな価格になったことです。でも1852年に出版された「Plain Cookery Book for the Working Classes」には「クリスマスや他の祭事のときに、鶏や七面鳥を下ごしらえしなければいけなくなることを願いましょう」とあるように、まだ労働者階級には贅沢品だったことがわかります。詰め物はせずに暖炉でローストし、グレービーかブレッドソース、またはゆで卵でできたソースを添えました。
1843年に発表されたチャールズ・ディケンズの『クリスマスキャロル』では、貧しい社員のクラチットの家族がクリスマスのご馳走であるガチョウを食べるところへ、改心したスクルージが七面鳥を持ってきます。これからも、七面鳥はまだ中流家庭の食べ物であったことがわかります。
肉をローストしている間にみんなで飲む
ちなみに以前ローストビーフの回に書いたように、貧しい人たちは家でローストできなかったので、クリスマスの日もパン屋に肉を持って行って、パン屋のオーブンでローストしてもらいました。
面白いことに、代々パン屋さんを営んでいる人によると、地方では何十年か前まで、クリスマスの日には家のオーブンに入らない大きな肉をパン屋に持って行って焼いてもらっていたそうです。そして肉がオーブンに入っている間、みんなで飲んで楽しく待っていたそうです。
クランベリーが売り切れ!
今は七面鳥にはクランベリーソースが添えられることが多いですが、クランベリーソースが一般的になったのは、1970年にアメリカからクランベリーが輸入されるようになってからです。
1995年には、デリラ・スミス(Delia Smith)が出版したレシピ本で9種類のレシピにクランベリーを使ったところ、クリスマスにはクランベリーがどこに行っても売れ切れという状態になりました。
伝統的なのはブレッドソース
変遷をとげるクリスマスディナー
このように、今「伝統的」に食べているクリスマス・ディナーも、実は比較的歴史が短く、様々な変遷を遂げてきたことがわかります。
ちなみに白鳥は19世紀にはほとんど食べられなくなり、飼育場も現在はほとんど残っていません。
今年は環境問題に焦点が当てられ、イギリスでも肉食を減らす人が増えました。その影響もあり、ベジタリアン向けのクリスマスフードもたくさん見受けられるようになりました。七面鳥がクリスマスの主役でなくなる日が来るかもしれませんね。
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