先日ケンブリッジ博物館に行った時に、おもしろいものを見つけました。ラムネの瓶です! 近年ゲームやアニメの人気とともに、日本の食料品も人気が高まり、いまやラムネもイギリスのスーパーで買える時代です。ガラス玉の入った独特の瓶は日本固有のものだと思っていましたが、なんと発明者はイギリス人。ハイラム・コッドという人です。
ラムネの語源は?
ちなみに、「ラムネ」の語源は「レモネード」だってご存知でしたか?「lemonade」を英語の発音で言うと、確かに「ラムネ」と聞こえるのです! でも日本でレモネードというと、レモンの砂糖(蜂蜜)漬けを割ったもの。ラムネとは違うじゃない、と思われるかもしれません。でも、イギリスのレモネードは、日本でいうサイダーのことなのです。つまり、イギリスのレモネードとラムネは基本的に同じものです。
イギリスのレモネードも、もとは日本のレモネードと同じでした。フランスからイギリスに、レモンの砂糖(蜂蜜)漬けを割ったレモネードが紹介されたのは、17世紀だと思われます。OEDによると、最初に英語でその言葉が使われたのは1664年です。英語辞典の編集で知られるサミュエル・ジョンソン(1709―1784)もその飲み物のファンでした。
炭酸水の誕生
18世紀後半には炭酸水を人工的につくる方法が確立されました。以前にライムが水兵の壊血病対策に使われるようになったと書きましたが、炭酸水も壊血病にきくと思われていたようです。効用があるとされる自然に湧く炭酸水からヒントを得て、最初に炭酸水を商業的に、でも薬として生産したのはトーマス・ヘンリーで、1770年代のことでした。そして、シュエップスが1802年までにロンドンで本格的な工場生産を始めました。
炭酸水の瓶
炭酸水が商業的に作られ始めると、それをどう瓶詰めするのかが問題になりました。最初は陶器に入れられましたが、まもなく壁から炭酸が逃げてしまうことがわかり、ガラスが使われるようになりました。コルクで蓋をするのがそれまでの方法でしたが、コルクは乾くと縮み、そこから炭酸が抜けてしまいました。
そのため、1809年にウィリアム・ハミルトンがコルクが乾かないビンを考案しました。日本では「きゅうり瓶」と呼ばれる卵形の瓶は、この瓶が絶対に立てて保存できないようにデザインされています。瓶が横になっていることでコルクが常に湿っている状態にするのです。保存に場所をとる、そして転がるという難点はあったものの、20世紀初頭まで使われていたようです。
1870年にはハイラム・コッドがコッド瓶で特許を取得します。ラムネ瓶の原型です。内蔵されたガラス玉を、炭酸ガスの圧力で押し上げて栓をします。この瓶は一世を風靡しましたが、ガラス玉を目当てに子供達が瓶を割ったりしたようです。こちらは1930年ごろまで使われていたようです。
炭酸レモネード
さて、レモン風味の炭酸水であるレモネードは19世紀に入ってから作られるようになりました。当初はクエン酸、シュガーシロップ、そしてレモンのエッセンシャルオイルを加えて作られていたようです。1840年代にはいわゆるイギリスのレモネードは50社以上で作られていたようです。この頃までには、炭酸水は薬用でなく、広く一般に飲まれるようになりました。
現在最も有名なイギリスのレモネードブランドR.White’sも、1845年にレモネード市場に参入しました。
1951年の万国博覧会ではお酒が禁止されたこともあり、シュエップスは会場でのソフトドリンクの独占販売権を獲得。世界にレモン風味の炭酸水を知らしめました。
炭酸レモネードはいつ日本へ?
そのレモネードがコルク瓶に入れられて日本に最初に紹介されたのは、1853年にペリーの黒船が来航した時だったと言われています。この時はきゅうり瓶に入っており、シャンペンボトルのように、コルクが「ポン!」という音をたてて開くのを聞いた江戸幕府の役人たちは、発砲音かと思い、とっさに刀に手をかけたとか。
1860年にはイギリス船が長崎に炭酸レモネードを持ち込み、外国人対象に販売を開始しました。
国産ラムネの誕生
1865年には長崎の藤瀬半兵衛が初めて国産の「レモン水」を製造販売し、1872年5月4日にには東京の千葉勝五郎が「ラムネ」として製造販売を開始。そのため、現在5月4日が「ラムネの日」となったそうです。
1887年にイギリスからコッド瓶を輸入し始めますが、1892年には大阪の徳永ガラス工場が、初めての国産瓶の製造に成功。国産瓶は輸入瓶よりも質が良く、イギリス人もびっくりしたそうです。そして日本でラムネ瓶が大流行しました。
サイダーとラムネの違い?
ちなみに、現在サイダーとラムネの違いは瓶だけのようですが、明治時代にはサイダーはリンゴ風味で、ラムネはレモン風味だったようです。前回お話ししたように、英語でサイダーというと林檎酒のことを指すので、納得です。リンゴ味のフレーバーの方が値段が高かったため、王冠栓の胴長丸形瓶に入ったサイダーの方が高級品、コッド瓶に入ったラムネは庶民の飲み物として扱われていたようです。
イギリスへ逆輸入
コッド瓶は、イギリスでは1930年ごろには王冠の瓶にとってかわられ、最近では全く見ることもありませんでした。でも、それから100年近くたって、日本から逆輸入されているのを見ると、不思議な気がしますね。
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Q:この家のガラスはどうやって作られたの? |
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<参考文献>
Boswell, James, 1785, The Journal of a Tour to the Hebrides with Samuel Johnson (Blackmask Online)
Conlin Casella, Eleanor, Nevell, Michael, Steyne Hanna, ed., 2022, The Oxford Handbook of Industrial Archaeology (Oxford University Press)
Emmins, Colin, 1991, Soft Drinks: Their Origins and History (Shire Publications Ltd)
H.M. Stationery Office , 1870, English patents of Inventions, Specifications 1870, 3048-3100 (H.M. Stationery Office)
Future Museum
Museum of Cambridge
Oxford English Dictionary
R.White’s Website
清涼飲料よもやま話
全国清涼飲料協同組合連合会Webサイト
トンボ飲料Webサイト
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