2018年11月6日火曜日

Q:この上げ下げ窓はどうして開かないの? 窓の歴史

前回、この家の半分の窓が開かなかったと書きましたが、何が原因だったのでしょう。
 
©モリスの城
 

塗り込められた窓


主な原因はメカニズムの問題でした。窓を吊るしているサッシコード(sash cord)が窓の上げ下げをコントロールしているのですが、それが切れてしまっていたものもありました。また、開きづらくなった窓にペンキを塗る時に、下のペンキをきちんと剥がさないで、そのまま重ねてペンキを塗っていった為、窓枠が塗り込められ、今度はペンキのせいでもっと開かなくなっていたということもありました。
塗り込められた窓 ©モリスの城
 
でも、ダイニングルームの窓は、修理屋さんに言わせると「ペンキのおかげで上側の窓が収まってたけど、外枠は腐ってたし、誰かが無理に開けようとしてたらきっとこの窓落ちてたよ。よくここまでもってたよ。奇跡だね」


メカニズム

 
では上げ下げ窓のメカニズムはどうなっているのでしょう?

上げ下げ窓は実は修理が簡単らしいです。もちろんスムーズに動かす様にするには、知識も技術も必要ですし、腐っていたらその部分は直さなければいけないですから大仕事ですが、窓は簡単に取り外すことができるので、切れたサッシコードを替えるぐらいだったら素人でもできるとのこと。

下の窓を押さえているビーズ(staff beads )と呼ばれる内側の押縁を取り外すと、下の窓が外れます。窓は、サッシコードで窓枠についている滑車に、更にその下にある平衡錘(counter weight)につながっているので、コードを切って、錘が落ちないように注意深く降ろします。今度は下の窓(前側)と上の窓(外側)の間にある境にある仕切縁parting beads)を外します。上の窓も下に下げて同じ様に外します。
 
右側の枠が押縁、滑車と滑車の間にあるのが仕切縁 ©モリスの城
 

錘がキー


窓を外してみると、窓枠の内側が開く様になっており、その中にサッシコードに繋がれた錘が入っています。 この錘が入っているところをサッシポケット(sash pocket)といいます。
 
ループになっているサッシコードは切って窓に取り付けられる©モリスの城
 
この錘の重さが的確でないと、開けても窓がその場で止まらないで落ちてきてしまったりします。錘の重さは窓の重さによって決まります。この部屋の窓は幅97cm高さ156cmですが、中に入っていた錘はこんなものでした。
 
©モリスの城
 
重さは測れませんでしたが、もともとの錘の長さは一つは45cm、もう一つは53cmで、ずっしりした鉄の塊です。上の窓の錘の方は、きちんと閉まるように少し重くなっています。下の錘は重すぎると引き上げられてきちんと閉まらないので少し軽めになっています。


錘で調整


今回、もう少し錘を加えないとダメだと言っていました。下側の窓はかなり傷んでいた為に、修理するより替えた方がいいというので新しいのにしたのですが、新しい窓の方が重いそうです。
 
なぜ?と聞いたら、ガラスが厚いからだそうです。それだけでなく、木材が新しいので、まだ水分が含まれているのだと思います。これから時間が経ち、乾燥していくとまた軽くなるのかもしれません。

古い錘は鋳鉄製ですが、新しいのは鉛製です。上げ下げ窓が導入されて最初のうちは鉛が使われていたらしいのですが、いつしかそれが鋳鉄に変わり、現在は鉛か鋼鉄が使われます。ちなみにCarron17591982)というのはスコットランドにあった製鉄所で、武器や、イギリスの象徴ともいえる赤い電話ボックスも作っていた会社です
 
19世紀の錘 ©モリスの城
現在使われている錘 ©モリスの城
 

大きいものは150cm


あまりに重くて大きい錘が入っていたのでびっくりしたのですが、修理屋さんによると、大きいのになると150cmぐらいの長さのものあるのだとか。もちろん窓が大きくなればなるだけ重くなりますから、それだけ錘も大きくなります。

19世紀も半ばになると窓のサイズがスタンダード化してくるようですが、それ以前は家に合わせて窓の大きさが変わったので、その窓にあった錘を計算し、調整するのはプロの仕事です。


窓に潜むセキレイ

 
錘の入っている箱の中には薄い板が入っており、二つの錘が絡まないように分けています。この薄い板のことをwagtail(セキレイ)といいます。セキレイは尾羽を振るのでwag-tail(尻尾振り)という名前がついたそうですが、こんな隠れたところにある、こんな些細なものに、こんな素敵な名前がついているとは! 固定されていないので、錘が上下するたびに振れるのでしょうね。だからそういう名前がついたのだと思います。
 
サッシポケットの中の薄い板がwagtail ©モリスの城
錘を調整し、汚れやはがれかけたペンキをとってきれいにし、腐った部分を新しい木材で直し、新しくペンキを塗ります。


開くようになった!

 
サッシコードを滑車を滑らせながらサッシポケットの中に入れ、それに調整した錘を結びつけます。 サッシコードの反対側は窓の傍に釘で固定されます。上の窓が取り付けられたら仕切縁を取り付け、下の窓を取り付けます。そして押縁を取り付けます。

窓の傍のサッシコードが通り、窓に釘で固定されるところ ©モリスの城
 
このようにして、開かなかった窓も開くようになり、開けるたびにガタガタしたり、開けていたら自然に落ちてきて閉まってしまっていた、なんていうこともなくなりました。



参考文献
三谷靖幸『イギリス「窓」事典』日外アソシエーツ 2007年
 Traditional Window: Their Care, Repair and Upgrading, 2014 (Historic England)
https://www.gracesguide.co.uk/Carron_Co

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