2015年5月10日日曜日

Q:「Grade II listed」とはどういうこと?

この家もそうなのですが、イギリスで家を探していると、よく見かけるのが「Grade II listed」という表現です。これは「建築的歴史的重要建造物リスト(the Statutory List of Buildings of Special Architectural or Historic Interest)に載っており、重要度はグレード2だという意味です。現在このリストに載っている建築物はイギリス全国で50万件程だそうです。

 

 

グレード


リストのグレードには3つあり、 

Grade Iは「重要文化財」で国際的にも重要だとされる特別な建造物に与えられます。全体の2.5%がこれにあたります。バッキンガム宮殿やウェストミンスター宮殿(国会議事堂)がその例です。

Grade II*は特に重要な建造物で全体の5.5%がそれにあたります。ロンドンのパレスシアター等がそれに含まれます。

Grade IIは国内で重要だとされる建造物で、92%をしめ、たいていが個人の邸宅です。

ちなみにスコットランドは独自のシステムをとっています。



イーリー大聖堂 Grade I

リストに載る建造物


1700年以前に建てられた建造物はすべてリストに載っています。1700年以降1840年以前のものも、余程手が入れられたものでなければほとんど含まれています。

 

女王がクリスマスを過ごすサンドリンガム・ハウス Grade II*

 

30年経てば自薦他薦でリストに載せてもらうことは可能ですが、審査に通らなければいけません。

ちなみに私の住んでいる町は2012年時点で人口17630人で、住居は8045軒ありましたが、リストに載っている建造物は273軒(3.4%)、その内訳はGrade I25II*7II241です。

 

 

赤い公衆電話も!


実はリストに載るのは建物だけではありません。塀や街灯、車止め(bollard)や赤い公衆電話ボックス等も対象になります。



外だけでなく内のものも


一般の住居の場合、たいていは外観さえ維持すれば大丈夫なのですが、家によっては、暖炉や床や壁や天井がリストに載っている場合もあります。その場合はリストに載っているものは、すべて保存の対象になります。

 

 

外観だけを守る?


ロンドンにいた時は、建物の正面だけを残して、後は改装の為に解体されたビルをよく見ました。建物の正面だけ、折り紙の一面のように突っ立っているのは、異様な光景だと思いましたが、それも保存の為なのですね。そうやって、建物の機能は進化しても美しい外観と町並みは保たれているのです。


表面は古い建物でもその後ろは新しい建物


勝手に変えてはいけない

                                       

歴史的文化的価値のある建築物の保存が目的なので、このリストに載っている建築物は、地方自治体の計画庁(planning authority)の許可を得なくては、解体はもちろん改築もすることができません。

 

リストに載っていない普通の家でも、建増しや建替えをする場合には計画許可(planning permission)を提出し、許可を得なければいけませんが、リストに載っている場合、Listed Building Consentいうものを提出し、その基準がかなり厳しくなります。勝手に変えると犯罪行為と見なされます。

 

また、その家主にはその建築物の保存状態を保つ義務が課されます。直しをするにも役所の保存担当員(conservation officer)と相談しないといけません。というのは、その建物にあった素材や手法を使わないと、その特徴が失われたり、長い目で見れば建物自体を傷めることになりかねないからです。

 

 

ばれなきゃいい?


そんなのめんどくさい、ばれなきゃいいんでしょ、と思うかもしれませんが、そうはいかないのですね。うちの近所の家は小さい窓を2倍ぐらいに広げたのですが、売る際に不動産鑑定士に指摘されたようで、もと通りに戻さなければいけませんでした。


©モリスの城
          

壊したものがち?

 

実は最近事件がありました。ロンドンの北西、Maida Vale192021年に建てられたパブCarlton Tavernがあります。

 
このパブは去年(2014年)の12月にイスラエルにベースを持つCLTX Ltdという会社に買い取られました。CLTX Ltdはこの建物を解体し、新しくマンションを建てるつもりで計画許可(planning permission)を提出しました。

 

ところがその計画は1月に却下されました。そのすぐ後、126日に、最近どんどん壊されてマンションにされていくパブの保存目的の為に、政府はより厳しい法律を導入する計画を発表しました。

 

イギリスでは、すでに2011年の地域主義法(Localism Act) で、パブの様なコミュニティにとって大切な土地や建物は、Assets of Community ValueACV: コミュニティ価値のある財産)として登録することができるようになりましたが、201546日より、ACV登録されたパブは、使用用途を変えるのに計画許可が必要になったのです。今までは開発権をもっていればそれは必要ありませんでした。

 

一方、歴史的建造物の保護組織であるHistoric England (English Heritage)は、このパブをgrade II listedに推奨しており、文化・メディア・スポーツ省の承認待ちでした。

 

公式に保護建造物になる数日前の4月8日、いきなりそのパブはブルドーザーで破壊されました。

 
Carlton Tavern - geograph.org.uk (creative commons)

前日までパブは営業しており、内装はそのまま、ジャケットをパブに忘れてきた人もいました。パブの従業員も何も知らず、ただ「棚卸しの為職場に来ないよう」に言われていただけでした。

 

騒ぎを聞きつけ、カウンシル(市議会)の職員が駆け付けた時にはすでに無惨な姿になっていました。このニュースは全国的に紹介され、イギリス国民の怒りを買いました。



レンガ一つ一つ元どおり

 

そして55日にカウンシルはCLTX Ltdに対し、18ヶ月以内にレンガ一つ一つ、すべて元通りに建て直す様正式に命令しました。「壊してしまえばこちらのもの」と思ったのでしょうが、イギリスの歴史的建造物に対する愛情を過小評価していましたね。

 

 

歴史的建造物への愛情

 

このように、「建築的歴史的重要建造物リスト」に載せる事で、イギリスの建造物と歴史、そして町並みは守られているのです。

 

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追記:20215

201548日にブルドーザーで破壊されたCarlton Tavernは、「レンガ一つ一つ」再建築され、2021412日に再オープンしました(ガーディアン紙記事)。幸運なことに、破壊される前に、CLTX Ltdの行動を疑った地元の人がHistoric Englandにリスト掲載を依頼し、それに先立ち、Historic Englandが内装を細かく記録していたのです。その後も、地元の一般の人々が圧力をかけ続け、諦めなかったおかげで実現したのです。





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