2015年7月7日火曜日

Q:浴槽の歴史は? お風呂の歴史

この家の浴槽はもともと白いのですが、黄色く変色し、ざらざらしている部分もあり、新調しようと思っていました。ところが、周りから「鋳鉄ホーローの浴槽だからもったいない。塗装しなおせば新品同様になるよ」と。そういえば最近鋳鉄製はあまり見ません。鋳鉄の浴槽はとても重いので、20世紀以降建てられた家だと床を補強しないといけないそうです。そこで考えました。浴槽の歴史は? 前回バスルームの歴史に書きましたが、今回それの補足に加え、浴槽についても調べてみたいと思います。

 

 

布をひいた浴槽

 

前回書いたように、古代ローマ皇帝は大理石のお風呂を使っていたようですが、イギリスの中世の人たちは、木製の浴槽に布やクッションをかぶせたものを使っていました。当時の浴槽は、日本のお風呂のようにスムーズに仕上げてあった訳ではなく、おしりにとげがささらないように布をひいたそうです。

 

 

お風呂を入れるのは大変

 

形は丸いものが多かったですが、現在の浴槽のように長いものもありました。でも、それは横たわるためのものではなく、複数で入るためです。昔はお湯を用意するのは大変だったので、お湯が冷めないうちに多くの人が入れるようにしたのです。

 

 

ヘンリー八世のお風呂

 

さて、ヘンリー八世の住んでいたハンプトンコートですが、もともとは枢機卿Thomas Wolseyが「王(ヘンリー八世)の為に」1514年に建てたものです。Kingston Hillの湧水が健康にいいということで、3マイル(約4.8キロ)離れた所から鉛製のパイプを通して水を引きました。(ちなみに20世紀初頭の調査によると、効用はなかったそうです。)Wolsey1528年に権力を失い、ヘンリー八世に宮殿を引き渡します。1529年に、ヘンリー八世は二階に新しいバスルームを作らせます。木製の浴槽が壁際にあり、水を供給する水栓とお湯を供給する水栓がありました。その浴槽も布をひいて使っていました。

 

©モリスの城

 

赤ちゃんを風呂水と一緒に捨てる

 

水が家庭にひかれるようになったのは17世紀になってからですが、広く普及したのは19世紀後半になってからです。水道が通るまで、お風呂に入る時は風呂桶は暖炉の前に持ってこられ、湧かしたお湯を繰り返し風呂桶に入れました。

 

労働階級の場合、キッチンに風呂桶が置かれました。一度お湯が入ると、家長から順番に入っていき、赤ちゃんは最後に入れられました。それまでにはお湯があまりに濁っていたので、手を滑らせたら最後、赤ちゃんをお湯の中で見つけるのは至難の技でした。

 

英語には「throw the baby out with the bathwater(赤ちゃんを風呂水と一緒に捨てる)」という表現があります。これは「大切なものを不要なものと一緒に捨てる」という意味で使われるのですが、まさに、ここからきています。

 

19世紀に使われていた風呂桶
 

中流階級以上の家では、風呂桶は寝室の暖炉の前におかれました。温かいお湯を地下か1階にある水場から運び、そして主人のお風呂が終わったらそれをくみ出して下まで運ぶのは、召使いの仕事でした。

 


 

様々な風呂桶

 

1851年の博覧会では、さまざまな風呂桶がみられました。銅製、亜鉛製、鉄板製のほか、旅行用の携帯風呂にいたっては、張子のものもあったようです。金属製のものには、ペンキが塗ってあったり、ワニスがかけてあったりしたようです。

 

主なものとしては、今の風呂桶のように長細いFull bath、頭の部分が高くなっているlounge bath、そして腰の部分だけ入れるhip bath。その他、浅いもので、つかるのではなく、スポンジで体に水をかけて使うsponge bathというものもありました。

 
ラウンジバス
 
ヒップバス A man smoking and reading the paper fully clothed in a hip-bath; self-help hydrotherapy in hot weather. Wood engraving Wellcome Collection (public domain)

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バスルームの誕生

 

中級家庭に限って言えば、1860年代には二階にバスルームが作られるようになり、水道から直接お風呂に水を入れる事ができるようになりました。

 

水は入れたものの、どうやって温かくするのか。この頃の浴槽には脇にガス加熱器が、又は浴槽の下にガスバーナーがついていて中の水を温めました。でも水が暖まるのに30分はかかりました。1868年には、Benjamin Waddy Maughanが自動湯沸器を発明し、瞬時に温かいお湯が使える様になっていきます。

 

衛生観念もかなり変わり、1869年のCassell’s Household Guideでは、毎朝冷たいシャワーを浴び、「Saturday night wash(土曜の夜に体を洗う習慣)」で暖かい風呂に入るのが衛生上重要だと強調しています。



風呂桶の進化

 

1880年代になると、鋳鉄の風呂桶ができ、ホーローが使われるようになりました。裕福な人を対象に、磁器のお風呂も作られるようになりました。そしてシャワー付きのお風呂も発売されました。

 

©anonymous6

 

バスルームが普及するのは?

 

イギリスの家庭にバスルームが完全に普及するのはここ40年ぐらいです。Shimonan様にご質問をいただき調べたのですが、1950年の政府の調べでは、バスルームがあるのは、全世帯の46%。1967年のEnglish Housing Surveyによると、4件に1件は、「風呂またはシャワー、室内トイレ、洗面台、湯水へのアクセス3箇所」のいずれかがなかったそうです

 

 

アボガドグリーンの浴槽

 

1970年代は、バスルームの可能性を探った時代でした。様々な色の浴槽がでてきて、アボガドグリーンは特に人気でした。1980年代以降、また白が好まれる様になります。1996年からBBCで放映されていたDIYリフォーム番組では、アボガドグリーンのバスルームが出てくるたびに、プリゼンターやインテリアデザイナーが吐き気をもよおすふりをしていたのを思い出します。

 

 

現在の浴槽

 

現在の浴槽はアクリル製、鋼製、天然石と樹脂を混合させたストーンレジン製、ファイバーグラス製等が主流になっています。

 

 

ホーローの浴槽の手入れ

 

ちなみに私は風呂桶をきれいにしようとして、強い洗剤を使いました。黄色い水分がでてきて、よかった! きれいになった! と思ったところ……こともあろうに、もっと黄ばんでしまいました。実は洗剤に含まれていた漂白剤がいけなかったようなのです。その後いろいろと調べて、酒石英と過酸化水素を混ぜた物を塗って乾かし、その後水で流すと黄ばみが薄れるということを発見しました。やはり塗装しなおさなければいけないようです。

 

 

 

20225月更新






<参考文献>

 

Cassell, Ltd, 1869, Cassell’s Household Guide: Being a Complete Encyclopaedia of Domestic and Social Economy, and Forming a Guide to Every Department of Practical Life, Vol.1 (Cassell, Peter and Galpin)

Department for Communities and Local Government, 2017, ’50 Years of the English Housing Survey’

Lindus Forge, J.W.  ‘Coombe Hill Conduit Houses and the Water Supply System of Hampton

Mitchell, Sally, 1996, Daily Life in Victorian England (Greenwood Press)

Court Palace’, Surry Archaeological Collections 56 (1959)

Worsley, Lucy, 2011, If Walls Could Talk: An Intimate History of the House (Faber)

Wright, Lawrence, Clean and Decent: The History of the Bathroom and the W.C. (Routledge & Kegan Paul, 1963)

 

Historic Royal Palaces website

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